森家の書

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1《春風編》

<序・晴れた日> たいていの人間がそうであるように、運命は、なにも準備をしていない時にヒョイッとやってくる。 木曽川流域の蓮台村の小領主の倅、三左衛門の生涯の転機となった日もそうだった。 カラリと晴れていた午後だっ...
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2《磊落編》

<序・奈落へ> 望みは叶えられなかった。 初陣を勝利で飾った可隆は、「父上、どうにか勝ちましたなあ」と、例によってのんびり笑っているはずだった。自分は「若造が」と、可隆の肩を思いっきり揺さぶってい...
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3《狂奔編》

<序・『破』> 権力者の、権力を持つ右手を斬り落とせば、 彼らは権力を左手に握りかえる 左手を斬れば、右足で掴みなおす 右足を斬れば、左足で掴む 左足を斬れば、腹に挟み込む 腹を裂...
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4《血煙編》

<序・第二世代 > (なんと美しい少年であろう) 梁田弟河内守前廉は、隣に正座している蘭丸の容貌に感心し、キョロキョロと顔ごと動かした。 天正五(一五七七)年の新年、安土城に白い雪が降り積もった。十...
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5《炎世編》

<一・弟に申し伝え候> 信長は海を寄せ 秀吉は海を越え 家康は海を閉じた。 天正六(1578)年九月三十日。 信長は、まさに海寄せの真っ最中であった。 傾いた船から...
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6《黒点編》

<序・銭が走る> 銭は効く。 銭の力を熟知しているのは、父が頑張って上司を蹴落としてくれた信長でもい。父が亡くなっているにもかかわらずなぜか領地を確保されている家康でもない。父から地位も土地も譲られていな...
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7《縦横編》

<序・外へ> 千丸にとって、ふわふわと雲を踏む日々だった。 長可の討ち死に前後の時期の記憶は、おぼつかない。 義姉(あね)の久が、髪を四方に伸ばし、失神したのは覚えている。 母や姉たちがかけよ...
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8《人華編》

<序・花々> 桜雲が十重二十重と群れている。 時たま微風が吹き、花びらが散る。 歓声をあげて喜ぶのは、これまた鮮やかな衣装の女たちである。 慶長三(一五九八)年三月十五日。 選びぬかれた美女たち...
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9《美作編》

<序・鬼復活> (まただ) 武藤五郎右衛門は、起き抜けに例の気配を感じて、冷や汗をかいた。 朝靄に包まれた金山城下で賭博場を兼ねる武藤の掘っ立て小屋には、彼しかいない。美作国への領地替えで、準備とし...
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10《完結編》

<序・側室の子> 馬が出ていかない。 それだけで江戸森屋敷の者、全てが悟った。 香々美が静かに厩舎に行くと、重政は笑顔を向けてきた。 「母上」 彼女も悟った。 息子は昨日までの息子...
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