7《縦横編》

<序・外へ>

 

 

千丸にとって、ふわふわと雲を踏む日々だった。

長可の討ち死に前後の時期の記憶は、おぼつかない。

義姉(あね)の久が、髪を四方に伸ばし、失神したのは覚えている。

母や姉たちがかけより、侍女たちに運ばせたのも覚えている。母が千丸に気づき、何やら話しかけてきたが、何を言っているのかわからなかった。

ただ、この間、視点が変わっていないから、自分はぼんやりと立っていただけなのだろう。

やがて池田家から老臣がやって来て、久をつれていってしまった。

そうそう、『母が気落ちしきっている。慰めるために久を引き取りたい』。これが池田輝政の言い訳だった。

久はうっすらと涙を浮かべ、振り返り、振り返り、金山城を去っていった。

後から計算すると、この間、一年余りたっているが、まるで覚えていない、

久の後ろ姿に、書院から見送った梅は何か言ったが、もちろん千丸の耳には届かなかった。

振り返った梅と千丸の目が合った。

梅は兜を持っていた。

霞がかった視界の中、梅は兜を持ちながら近づいてきた。

千丸の前に立つと、何かを言って、兜をかぶせてきた。

ずしっ。

千丸の頭が重くなった。

左右から、ぎこちない笑顔を浮かべた妙向尼と竹が何か言ったが、もちろんわからない。

次に現れたのは、各務兵庫であった。

鎧を着込んだ各務兵庫は千丸の前に立ち、何か言った。意識に霞がかっている千丸には、わからない。

「トノ。ゴシュツジンデゴザイマスゾ」

ここにいたって、千丸の精神は、ようやく現実世界に繋がった。

「…………え?」

各務兵庫は辛抱強く繰り返した。

「ご出陣でござる」

キョトキョトと、千丸は目を泳がせた。

「……え?」

<一・戦へ>

 

 

佐々成政という男がいる。

 

 

 

 

<二・南へ>

 

 

ちなみに、この何もしていない忠政が、天正十四年七月十一日、豊臣秀吉の関白拝賀の節に供奉を仰せつかった。

 

 

 

 

<三・東へ>

 

 

九州は平定した。残りはどこだ?

 

 

 

 

<四・西へ>

 

 

天正二十年は、十二月八日に文禄に改元された。

 

 

 

 

<五・港へ>

 

 

外にたなびいていた黒い煙が、内に向かってきた。

 

 

 

 

<続>

 

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