6《黒点編》

<序・銭が走る>

 

銭は効く。

 

銭の力を熟知しているのは、父が頑張って上司を蹴落としてくれた信長でもい。父が亡くなっているにもかかわらずなぜか領地を確保されている家康でもない。父から地位も土地も譲られていない秀吉だった。

地位も領地も、手に入れるには獏大な力と金が必要だ。

水呑み百姓に生まれた秀吉に、力も金も土地もなかった。

無一文の秀吉が、最初に手にした金は、手垢にまみれ、刻印もすり減った一番小さな銅貨かと思われる。手のひらに入る大きさと軽さだから、持ち運びに便利だ。この銅貨は、すぐに手放しただろう。次に手に入れるには相当時間がかかったことはずだ。秀吉がラッキーだったのは、最初に金を手にした時期が、子どもであったことだ。子どもに対して甘いのが世間である。次に金を手に入れるまで、秀吉は世間のこの甘さを利用して生きていたことだろう。失敗しても、「子どもだから」許される。同じ仕事をしても、「子どもだから」少し余分に手間賃をもらえる。熟練度が低いのも、「子どもだから」当たり前だ。

この間に、金と力を持った人間。持たなかった人間。一度持ちながら、なくした人間。各々を観察したはずだ。

信長や家康より有利な点といえば、雑兵、端女、小僧、百姓等々、領主にまみえない者たちの愚痴や不満を直接聞いてきたことだ。彼らに地位や領地は意味がない。しかし、銭は大いに意味があるのだ。

秀吉が力と金を握る身分になった時、まみえない身分にも金を与え、己が力の一つとした。

 

天正十(一五八二)年六月二日、それが活きた。

 

 

 

 

<一・千丸奪還>

 

 

「勝俊、ちょっと来て」

 

 

 

 

<二・狙うもの>

 

 

秀吉が信長の弔い合戦の勝者となったころで、後継者の最有力候補となった。

 

 

 

 

<三・戦戦戦>

 

 

翌年、新年初日。長可は金山城の書院で細野左近に地図を持ってこさせると、

「次は、どこを攻めるか」

ごく淡々と広げ、

「…………」

そっ閉じた。

 

 

 

 

<四・前戦、羽黒八幡林の戦い>

 

 

豊臣秀吉は、呻った。

 

 

 

 

<五・小牧長久手戦>

 

ようやく負けたかあ。

 

 

 

 

<続>

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